土用の丑の日
隆志は、
うなぎ屋の息子として産まれた。
うなぎ屋と言っても、食堂ではなく養鰻、つまり鰻の養殖を家が営んでいた。
毎年、土用の丑の日が近くなると、猫の手も借りなければ間に合わないくらい忙しかった。
実際、猫には頼んだことは無かったが。(笑)
養殖場で鰻を池上げして、家の立て場に運び、地下水にさらして泥を吐かせてしめる。
2、3日たってから、ビニール袋に、氷と水と酸素を入れて、生きた鰻、活うなぎを全国に発送する。
弱ってそうな鰻は、その時点で、はねる。
その鰻を、捌いて白焼にして、冷蔵庫に保管するのだが、家の冷蔵庫は、この白焼きの匂いで充満していた。捌くのは、子供の俺の仕事でもあった。とにかく回りが鰻だらけなので、小さい頃から好んで食べようと思わなかったのは、その辺の事情からかな。(笑)
同級生に養豚場の息子がいたので、ヒレ肉の塊と鰻をよく交換したものだ。
近年、鰻の飼料も改良され、兄が経営する大森淡水がハーブを配合した飼料を開発し、それを鰻に食べさすことにより、所謂、川魚特有の臭みがなくなり、俺は、好んで食べるようになった。
と言うことで、今年も、その兄貴からハーブ鰻を送ってきてくれたので、今は亡き親父とお袋を偲びつつ、有り難く頂くことにします。
隆志